物忘れと認知症の違い — 受診の目安と相談先
結論: 年齢とともに物忘れが増えるのは自然なことです。加齢による物忘れは体験の一部を忘れるのに対し、認知症では体験そのものを忘れ、日常生活に支障が出てきます。気になる変化が続くときは、早めにかかりつけ医や地域包括支援センターに相談してください。治療で改善する病気が隠れていることもあります。
加齢による物忘れとは
年齢を重ねると、人の名前がすぐに出てこない、物をどこに置いたか忘れる、といったことが増えます。これは記憶の働きが少しずつ変化するためで、それだけで病気とは限りません。多くの場合、時間がたったりヒントがあったりすれば思い出せ、忘れたことにも自分で気づいています。
認知症の物忘れとの違い
認知症は、脳の働きが持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障が出ている状態を指します。物忘れの現れ方には、次のような傾向の違いがあります。
| 加齢による物忘れ | 認知症の物忘れ | |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる(何を食べたか思い出せない) | 体験そのものを忘れる(食べたこと自体を忘れる) |
| ヒント | ヒントがあると思い出せることが多い | ヒントがあっても思い出せないことが多い |
| 自覚 | 忘れっぽいことを自分で気にしている | 忘れていること自体に気づきにくくなる |
| 日常生活 | 大きな支障はない | 約束、家事、支払い、慣れた道などで支障が出る |
| 進み方 | 急に悪くなることは少ない | 少しずつ進むことが多い |
軽度認知障害(MCI)とは
認知症と、年齢相応の状態とのあいだにあたる段階です。記憶などの認知機能の低下が本人や家族に気づかれる程度にあるものの、日常生活はおおむね自立して送れている状態を指します。
日本では、2022年時点で65歳以上の約559万人(15.5%)がMCIの状態にあると推計されています。日本神経学会の「認知症疾患診療ガイドライン2017」では、MCIから認知症に進む人は1年で約5〜15%である一方、1年で約16〜41%は正常な状態に戻るとされています。MCIの段階で気づき、生活習慣や持病の管理を見直す意味はここにあります。
治療で改善しうる「認知症のような状態」
物忘れや意欲の低下などの症状があっても、原因によっては治療で改善することがあります。たとえば次のような病気です。
- 正常圧水頭症 — 脳の中に髄液がたまる病気。歩きにくさ(小刻みで転びやすい歩き方)、物忘れ、尿もれが典型的な症状で、手術で改善することがあります
- 慢性硬膜下血腫 — 頭を打ったあと、数週間〜数か月かけて脳の表面に血がたまる病気。手術で改善することがあります
- 甲状腺機能低下症 — 甲状腺ホルモンが不足し、頭の働きが鈍くなることがあります。多くは治療で改善します
- ビタミン不足(ビタミンB12など)
このほか、うつ病や、急に意識が混乱する「せん妄」、薬の副作用でも、認知症に似た状態になることがあります。早めに受診する一番の理由は、こうした原因を見逃さないことです。
相談のきっかけになる変化の例
次のような変化が以前と比べて目立つ、しばらく続いているというときは、相談を考えるきっかけになります。
- 同じことを何度も聞いたり話したりする
- 大事な約束や予定を忘れ、忘れたことにも気づかない
- 料理、支払い、薬の管理など、段取りのいる作業が難しくなった
- 慣れた道で迷う
- 日付や曜日が分からなくなることが増えた
- 趣味や好きなことへの関心が薄れた、怒りっぽくなった
どこに相談すればいいか
- かかりつけ医 — まず身近な医師に相談すると、必要に応じて専門の医療機関を紹介してもらえます
- 地域包括支援センター — 市区町村が設置している高齢者の総合相談窓口です。本人だけでなく家族からの相談もでき、費用はかかりません。お住まいの市区町村のホームページで探せます
- もの忘れ外来・認知症疾患医療センター — 認知症の専門的な診断や相談ができる医療機関です。都道府県・政令指定都市が指定するセンターもあります
- 認知症の人と家族の会 電話相談 — フリーダイヤル 0120-294-456(携帯電話からは 050-5358-6578、通話料有料)。受付は10時〜15時で、土日祝日・夏季・年末年始は休みです(2026年10月時点。最新の情報は同会のホームページで確認してください)
家族が気づいたとき
物忘れを指摘されることは、本人にとってつらいものです。責めたり試したりするのではなく、「最近疲れていない?」「健康診断のついでに一緒に行こう」など、本人の気持ちに配慮して受診や相談を勧めることが大切です。2024年に施行された認知症基本法も、認知症の人の意思を尊重し、本人と家族を支えることを基本理念に掲げています。
ゲームの成績と物忘れ
MIKIRIのようなゲームの成績は、認知症やMCIの診断や判定には使えません。成績は睡眠、体調、端末、慣れなどで大きく変わります。成績が落ちたことを理由に不安になる必要はなく、反対に成績が良いことは「問題がない」ことの証明にもなりません。気になる変化があるときは、ゲームではなく医療機関や相談窓口を頼ってください。
FAQ
- 物忘れが増えたら認知症ですか?
- そうとは限りません。年齢とともに物忘れが増えるのは自然なことです。体験そのものを忘れる、日常生活に支障が出る、といった変化が続くときは相談してください。
- 何科を受診すればいいですか?
- まずはかかりつけ医に相談するのが一般的です。もの忘れ外来、神経内科、精神科、脳神経外科などで専門的な診察が受けられます。迷ったら地域包括支援センターに相談できます。
- 本人が受診を嫌がります
- 健康診断のついでや、家族の付き添いとして一緒に行くなど、本人の気持ちに配慮した誘い方があります。地域包括支援センターや家族の会の電話相談でも、対応の相談ができます。
出典
- 健康長寿ネット(公益財団法人長寿科学振興財団)「認知症とは」 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/about.html
- 国立長寿医療研究センター「認知症の原因」 https://www.ncgg.go.jp/dementia/cause/
- 健康長寿ネット「正常圧水頭症」 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/noukekkansikkan/Seijoatsusuitosho.html
- 東京都健康長寿医療センター「軽度認知障害(MCI)」(日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン2017」の数値を引用) https://www.tmghig.jp/hospital/diseases/brain/brain2/
- 厚生労働省「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(2024年) https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
- 厚生労働省「認知症に関する相談先」 https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/dementia/a05.html
- 公益社団法人 認知症の人と家族の会「活動内容(電話相談)」 https://www.alzheimer.or.jp/?page_id=73
- 共生社会の実現を推進するための認知症基本法(令和5年法律第65号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82ab9328&dataType=0&pageNo=1