認知症予防で科学的に言えること — 14のリスク要因と最新の研究

この記事は一般向けの情報提供を目的としたもので、医学的な診断・治療の代わりにはなりません。気になる症状がある場合は、医療機関や地域の相談窓口にご相談ください。

結論: 認知症を確実に防ぐ方法はまだありません。ただし、聴力、血圧、コレステロール、運動不足、喫煙、社会的孤立など14の要因に取り組めば、理論上は最大で約45%の認知症が予防または先送りできる可能性がある、と国際的な専門家委員会は推計しています。ここでいう「予防」は、認知症にならないことではなく、なるのを遅らせる、なっても進行を緩やかにするという意味です。

日本の現状 — 2040年に認知症は約584万人

厚生労働省の研究班が2024年に公表した推計では、2022年時点で65歳以上の認知症の人は約443万人(有病率12.3%)、その手前の段階である軽度認知障害(MCI)の人は約559万人(15.5%)でした。将来推計は次のとおりです。

この推計は、2015年に公表された前回の推計より低くなりました。研究班は、その背景として喫煙率の低下や、高血圧・糖尿病などの生活習慣病の管理が改善したことなどを挙げています。生活習慣や病気の管理が、社会全体の認知症の数に影響しうることを示す一つの例です。

「予防」とは何を意味するのか

国の認知症施策推進大綱(2019年)は、「予防」を「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味だと定義しています。年齢は最大の危険因子であり、誰でも認知症になりえます。この記事で紹介する対策も、「これをすれば認知症にならない」というものではありません。

また2024年1月には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行されました。認知症の人が尊厳を保ち、希望を持って暮らせる社会をつくることが目的で、予防と並んで「共生」が柱になっています。

14のリスク要因(ランセット委員会 2024年)

医学誌ランセットの専門家委員会は、2024年の報告で、変えることのできる認知症のリスク要因を14に整理しました。2020年の12要因に、中年期の高いLDLコレステロールと高齢期の治療されていない視力低下が加わっています。

若年期(〜18歳ごろ)

中年期(18〜65歳ごろ)

高齢期(65歳ごろ〜)

14の要因をすべて取り除けたとすると、世界の認知症の約45%が予防または先送りできる可能性があると推計されています。影響がもっとも大きいとされたのは、中年期の難聴と高いLDLコレステロールで、それぞれ約7%でした。

※この「45%」は、各要因と認知症の関係が因果関係であると仮定して計算した推計値(人口寄与割合)です。一人ひとりがこれだけリスクを減らせるという意味ではなく、国や地域によっても値は変わります。

実際に介入した試験では何が分かったか

リスク要因は観察研究から分かったものが多く、「それを改善すれば本当に認知症が減るのか」は、介入試験で確かめる必要があります。代表的な試験の結果は、期待と限界の両方を示しています。

FINGER(フィンランド, 2015年)

認知症のリスクが高めの60〜77歳を対象に、食事指導・運動・認知トレーニング・血管系リスクの管理を2年間組み合わせた試験です。介入群は対照群より認知機能テストの成績がわずかに良く、統計的に意味のある差がありました。差は小さいものの、複数の生活習慣を同時に整える「多因子介入」の可能性を示した試験として、世界各地で同様の試験(WW-FINGERS)が行われています。

J-MINT(日本, 2024年)

FINGERの日本版にあたる試験で、軽度認知障害のある65〜85歳の531人に、生活習慣病の管理、運動教室、栄養相談、タブレットでの認知トレーニングを18か月行いました。主要な評価項目である認知機能の総合点では、対照群と統計的に意味のある差は出ませんでした。一方で、運動教室に7割以上参加した人では認知機能の改善が見られ、遺伝的にリスクの高い人などで効果が見られたという分析もあります。

SPRINT MIND(アメリカ, 2019年)

高血圧の成人約9,300人で、上の血圧の目標を120mmHg未満とする厳しい治療と、140mmHg未満とする標準的な治療を比べました。厳しい治療の群では軽度認知障害になるリスクが19%低くなりました。認知症そのものについては、試験が早期に終了したこともあり、はっきりした差は確認できませんでした。

ACHIEVE(アメリカ, 2023年)

難聴のある70〜84歳の977人に、補聴器と専門家の支援を3年間行った試験です。参加者全体では認知機能の低下に差はありませんでした。ただし、もともと認知症のリスク因子を多く持つ人たちのグループでは、低下が48%緩やかでした。

WHOのガイドライン

WHOは2019年に、認知機能の低下と認知症のリスクを減らすためのガイドラインを公表し、運動、禁煙、食事、飲酒、認知トレーニング、社会活動、体重・血圧・コレステロール・血糖の管理、難聴への対応などの効果を評価しました。脳トレなどの認知トレーニングについては、推奨は「条件付き」、証拠の質は「非常に低い〜低い」とされています(詳しくは脳トレに効果はある?)。

研究から見えてくる、日々の取り組み

ここまでの研究を踏まえると、次のことは、認知症のためだけでなく体全体の健康のためにも意味があります。どれも、かかりつけ医と相談しながら進めるものです。

国立長寿医療研究センターは、運動と頭を使う課題(計算やしりとりなど)を同時に行う「コグニサイズ」を考案しています。楽しみながら体を動かす工夫の一つです。

脳トレゲームの位置づけ

脳トレゲームは、上の取り組みの代わりにはなりません。MIKIRIも同じで、認知症を予防する、認知機能を改善するといった効果は主張しません。ゲームとして楽しみながら、人と記録を見せ合ったり、続ける習慣のきっかけにしたりする、という使い方が現実的です。

FAQ

認知症は予防できますか?
確実に防ぐ方法はまだありません。ただし、血圧や聴力、運動不足など14のリスク要因に取り組むことで、発症を遅らせたり、リスクを下げたりできる可能性があると考えられています。
何から始めればいいですか?
まず健診を受け、血圧・コレステロール・血糖を確認することです。聞こえや見え方の検査、体を動かす習慣、人とのつながりも大切です。
脳トレは意味がありますか?
認知症予防としての証拠は限られており、WHOの推奨も条件付きです。運動や病気の管理の代わりにはなりません。

出典

  1. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452):572-628. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(24)01296-0
  2. 厚生労働省「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」(研究代表者 二宮利治, 2024年) https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
  3. nippon.com「認知症高齢者 2040年に584万人 7人に1人の割合」 https://www.nippon.com/ja/japan-data/h01994/
  4. 認知症施策推進大綱(2019年, 認知症施策推進関係閣僚会議) https://www.mhlw.go.jp/content/000522832.pdf
  5. 共生社会の実現を推進するための認知症基本法(令和5年法律第65号) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=82ab9328&dataType=0&pageNo=1
  6. Ngandu T, et al. A 2 year multidomain intervention ... (FINGER). Lancet. 2015;385:2255-2263. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(15)60461-5
  7. 国立長寿医療研究センター「多因子介入プログラムが、認知機能低下を抑制する可能性を示す(J-MINT研究)」(2024年) https://www.ncgg.go.jp/ri/report/20240507.html
  8. SPRINT MIND Investigators. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia. JAMA. 2019;321(6):553-561. https://doi.org/10.1001/jama.2018.21442
  9. Lin FR, et al. Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE). Lancet. 2023. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)01406-X
  10. WHO. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines (2019). https://www.who.int/publications/i/item/9789241550543
  11. 健康長寿ネット「コグニサイズ — 認知症予防へ向けた運動」 https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/cognicise.html

この記事は一般向けの情報提供を目的としたもので、医学的な診断・治療の代わりにはなりません。気になる症状がある場合は、医療機関や地域の相談窓口にご相談ください。

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