脳トレに効果はある?研究で分かっていること・分かっていないこと
結論: 脳トレを続けると、練習したゲームの成績はほぼ確実に上がります。一方で、その上達が記憶力や判断力など日常の力全体に広がるという証拠は弱く、研究者のあいだでも意見が分かれています。認知症のリスクについては、特定の訓練で発症が少なかったという長期研究がある一方、全体としての証拠の確かさは「低い」と評価されています。
「脳トレは効くのか」という問いには、実は3つの違う問いが混ざっています。(1)練習したゲームが上手くなるか、(2)似たような別の課題も上手くなるか、(3)仕事や生活、認知症のリスクにまで良い影響があるか。研究の結論は、この3つで大きく違います。この記事では、この順に見ていきます。
そもそも「脳トレ」とは何を指すのか
研究の世界では、大きく2種類に分けて考えます。世界保健機関(WHO)のガイドラインもこの分け方をしています。
- 認知トレーニング — 記憶、注意、処理速度など、特定の働きを狙った課題を繰り返し練習するもの。スマホやパソコンの脳トレゲームの多くはこちらです。
- 認知刺激 — 会話、話し合い、創作などを通じて、頭を幅広く使う活動。グループで行われることが多いものです。
この記事で「脳トレ」と呼ぶのは、主に前者の認知トレーニング、特にコンピューターやスマホで行うものです。
(1) 練習したゲームは上手くなる — ほぼ確実
同じ種類の課題を繰り返せば、その成績は上がります。これは多くの研究で一貫しており、ほぼ疑う人はいません。ゲームのルールに慣れる、コツをつかむ、見るべき場所が分かってくる、といった変化が積み重なるためです。
ただし、ここで伸びているのは「そのゲームのための力」である可能性が高い点に注意が必要です。スコアが2倍になったからといって、記憶力そのものが2倍になったわけではありません。
(2) 似た課題にどこまで広がるか — 近いものには広がる
練習した課題と似た別の課題にも成績の伸びが広がることを「近い転移」、まったく違う能力(知能、学力、日常生活の判断など)にまで広がることを「遠い転移」と呼びます。
2019年に発表された、多数のメタ分析をさらにまとめた研究(二次メタ分析)では、記憶の練習は似た記憶課題には効果が広がる(近い転移)一方、知能や学力といった遠い能力への効果は小さいか、ほぼゼロでした。特に、比較対象のグループにも何か別の活動をしてもらった、条件のそろった研究ほど、遠い転移の効果は小さくなりました。
(3) 日常生活にまで広がるか — 証拠は弱く、意見が割れている
2014年、スタンフォード大学長寿センターとマックス・プランク研究所が呼びかけ、70人を超える心理学者・神経科学者が声明を出しました。内容は「脳トレ企業の広告が言うように、認知機能全般を高めたり加齢による低下を遅らせたりするという主張を支える科学的証拠は不十分だ」というものです。数か月後には、133人の研究者・実務家が「一部の訓練は日常生活に広がる効果を示している」とする反論の声明を出しました。
この対立を受けて、2016年には心理学の専門誌で、脳トレ企業が根拠として挙げた研究などを詳しく検討した大規模なレビューが発表されました。結論は、練習した課題が上手くなる証拠は多いが、似ていない課題や日常生活の成果が良くなる証拠は少ない、というものでした。また、研究の設計(比較対象の置き方、参加者の期待の影響など)に問題がある研究が多いことも指摘されています。
認知症のリスクについては?
ここがいちばん関心の高いところでしょう。主な研究を順に見ます。
ACTIVE試験(アメリカ)
65歳以上の高齢者を対象に、「処理速度」「記憶」「推論」の3種類の訓練(約10回、数週間)と、何もしない群を比べたランダム化比較試験です。10年後の分析(2017年)では、処理速度の訓練を受けた群で認知症のリスクが29%低かったと報告されました。
2026年に発表された20年後の分析では、医療保険の請求記録で認知症の診断を追跡したところ、処理速度の訓練に加えて追加の訓練(ブースター)も受けた群で、認知症と診断されるリスクが約25%低いという結果でした(ハザード比0.75)。一方で、ブースターなしの処理速度訓練、記憶の訓練、推論の訓練では、はっきりした差は見られませんでした。
注目すべき結果ですが、次の点も合わせて知っておく必要があります。
- 差が出たのは特定の訓練の、特定の条件だけで、脳トレ全般の結果ではありません
- 認知症の判定は医療保険の診断記録にもとづくもので、受診のしやすさなどの影響を受けえます
- 長期の追跡研究として貴重な一方、同じ規模で再現した試験はまだ限られています
コクランレビュー(2020年)
医療の研究をまとめて評価することで知られるコクランが、健康な高齢者に12週間以上のコンピューター認知トレーニングを行った研究をまとめました。結果は、訓練直後に全般的な認知機能がわずかに改善した可能性はあるものの、証拠の確かさは「低い」。訓練の1年後まで効果が続くかについては、はっきりした証拠はありませんでした。
WHOのガイドライン(2019年)
WHOは認知機能低下と認知症のリスクを減らすためのガイドラインで、認知トレーニングについて「正常な認知機能の高齢者や軽度認知障害の人に提供してもよい」としました。ただし推奨の強さは「条件付き」、証拠の質は「非常に低い〜低い」と評価されています。
広告の言葉には注意を
2016年、アメリカの連邦取引委員会(FTC)は、脳トレアプリ「Lumosity」の運営会社に200万ドルの支払いを命じました。「ゲームで仕事や学業の成績が上がる」「加齢による記憶の低下や認知症、アルツハイマー病を防げる」といった広告を、十分な科学的根拠なしに行ったと判断されたためです。日本でも2022年3月、消費者庁が「認知機能」をうたう機能性表示食品の広告を一斉に調べ、115社の131商品に表示の改善を指導しました。物忘れや認知症の治療・予防ができるかのような表示も問題とされています。
「脳が若返る」「認知症を防ぐ」とはっきり書かれた商品ほど、根拠を確かめる価値があります。
では、脳トレとどう付き合えばいいか
- 楽しみとして遊ぶ。 楽しく続けられること自体に価値があります。効果を期待しすぎないほうが、長く続きます
- 記録は「その日の調子」の目安として見る。 睡眠不足や体調で成績は動きます。同じ条件で比べると、変化に気づきやすくなります
- 脳トレ「だけ」に頼らない。 認知症のリスクと関係が強いとされているのは、運動、血圧・コレステロール・血糖の管理、聴力、社会的なつながりなどです(認知症予防で科学的に言えることで詳しく解説しています)
- 気になる変化があれば、ゲームではなく医療機関へ。 ゲームの成績は診断の代わりになりません(物忘れと認知症の違い)
MIKIRIのスタンス
MIKIRIは、一瞬の判断を競う無料のブラウザゲームです。処理速度や注意を使う課題を含みますが、上で紹介した研究で使われた訓練プログラムと同じものではありません。MIKIRIで認知機能が改善する、認知症を予防できる、とは考えていませんし、そう主張もしません。ゲームとして楽しみ、その日の記録を自分の目安として使ってもらうためのものです。
FAQ
- 脳トレをすると頭が良くなりますか?
- 練習したゲームは上手くなりますが、知能や学力などの全体的な力が上がるという証拠は弱いとされています。
- 脳トレで認知症は防げますか?
- 防げると言える証拠はありません。特定の訓練で認知症の診断が少なかったという長期研究はありますが、証拠全体の確かさは低く、WHOの推奨も「条件付き」です。
- それでも脳トレをする意味はありますか?
- 楽しみとして続けること、その日の調子を知る目安にすることには意味があります。ただし、運動や血圧の管理などに代わるものとは考えないでください。
出典
- WHO. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines (2019). https://www.who.int/publications/i/item/9789241550543
- Gates NJ, et al. Computerised cognitive training for 12 or more weeks for maintaining cognitive function in cognitively healthy people in late life. Cochrane Database Syst Rev. 2020. https://doi.org/10.1002/14651858.CD012277.pub3
- Simons DJ, et al. Do "Brain-Training" Programs Work? Psychol Sci Public Interest. 2016;17(3):103-186. https://doi.org/10.1177/1529100616661983
- Sala G, et al. Near and far transfer in cognitive training: A second-order meta-analysis. Collabra: Psychology. 2019;5(1). https://doi.org/10.1525/collabra.203
- Stanford Center on Longevity / Max Planck Institute. A Consensus on the Brain Training Industry from the Scientific Community (2014). https://longevity.stanford.edu/a-consensus-on-the-brain-training-industry-from-the-scientific-community-2/
- Edwards JD, et al. Speed of processing training results in lower risk of dementia. Alzheimers Dement (N Y). 2017;3(4):603-611. https://doi.org/10.1016/j.trci.2017.09.002
- Coe NB, et al. Impact of cognitive training on claims-based diagnosed dementia over 20 years: evidence from the ACTIVE study. Alzheimers Dement (N Y). 2026;12:e70197. https://doi.org/10.1002/trc2.70197
- U.S. Federal Trade Commission. Lumosity to Pay $2 Million to Settle FTC Deceptive Advertising Charges (2016). https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2016/01/lumosity-pay-2-million-settle-ftc-deceptive-advertising-charges-its-brain-training-program
- 消費者庁「認知機能に係る機能性を標ぼうする機能性表示食品の表示に関する改善指導及び一般消費者等への注意喚起について」(2022年3月31日) https://www.caa.go.jp/notice/assets/representation_cms214_220331_01.pdf